効率を50%に高めるパワー・アンプ用モジュール量産へ、Nujira社CEOに聞く PDF 打印 E-mail

前川慎光:EE Times Japan (27/10/2008) -

英Nujira(ヌジラ)社は、基地局用パワー・アンプの電力変換効率向上を狙った 電力供給モジュールの設計・開発を手掛けるベンチャー企業である。同社独自の高効率化技術「HAT(High Accuracy Tracking)」を適用したモジュールの生産を2008年11月に本格化させ、2009年第2四半期には量産出荷を開始する。

このHATモジュールが対象とする用途は幅広い。携帯電話通信やデジタル・テレビ放送「DVB」、固定無線アクセス(FWA:Fixed Wireless Access)をはじめ、WiMAXやLTE(Long Term Evolution)といった新たな無線通信方式などである。例えば、NTTドコモやKDDIといった通信事業者(キャリア)に向けて、基地局装置を提供 する装置メーカーに売り込む。現在、同社の顧客数は18社で、このうち12社にはすでに販売契約済みであるとする。同社の最高経営責任者(CEO)を務め るTim Haynes氏は、「2008年末には、18社中16社がこのモジュールを採用することになるはずだ」と意気込む。

同社は、このHATモジュールを介してパワー・アンプに電力を供給すれば、アンプの電力変換効率を、最大50%に高められると説明する。W-CDMA基 地局で現在採用されているパワー・アンプの効率は15%程度、研究段階のパワー・アンプでも25%程度にとどまるので、50%の効率は極めて高い。 Haynes氏に、HATモジュールの仕組みなどを聞いた。(聞き手=前川慎光)

EE Times Japan(EETJ) なぜ、電力供給モジュールによってパワー・アンプの効率が高められるのか。 Haynes氏 パワー・アンプで増幅する高周波(RF)信号のエンベロープ(包絡線)の変化に合わせて、パワー・アンプに供給する電圧を動的に調整す る。これによって、効率を高める。  現在、基地局のパワー・アンプにはAB級アンプが広く採用されており、効率は15%程度と低い。常に一定の電圧を印加しているからだ。飽和レベルに近い 振幅が大きな「大信号」を増幅する際の効率は高いが、小信号の増幅時には効率は大きく低下してしまう。 HATモジュールを使った場合でも、AB級アンプを使うという点は、これまでと何ら変わらない。しかし、AB級アンプへ電力を供給する仕組みを変える。す なわち、RF信号のエンベロープに合わせて印加電圧を動的に変えることで、小信号動作時には供給する電力を小さく抑えて、大信号動作時には供給する電力を 高める。このような仕組みで、パワー・アンプの効率を最大50%に高める。

RF信号のエンベロープ情報は、ベースバンド処理プロセッサがデジタル形式で出力する信号(「エンベロープ信号」)から取得する。HATモジュールで は、このエンベロープ信号に基づいた出力電圧を生成し、パワー・アンプに向けて出力する。HATモジュールを使うには、このモジュール用のデジタル・イン ターフェース回路をベースバンド処理プロセッサに作り込む必要がある。しかし一般に、ベースバンド処理プロセッサにはFPGAが使われていることが多いの で難しいことではない。2002年にHATモジュールの構想を練っていたときには、ベースバンド処理プロセッサとの連携が、採用障壁になるかもしれないと 考えていたが、実際にはそうでもなかった。

「非常に複雑な構成だ」 EETJ オーディオ・アンプには、H級アンプのように供給する電圧を動的に変えて駆動するものがある。これとの違いは何か。また、HATモジュールの仕 組みを教えてほしい。 Haynes氏 効率を高めるための考え方は似ているが、実現技術は大きく異なる。 HATモジュールの仕組みは明かせないが、「分析(analysis)と信号処理(processing)」機能を実現するDSPや、「制御 (control)」機能を実現するFPGAをはじめ、アナログ回路ブロックやパワー回路ブロックなどを組み合わせた非常に複雑な構成を採る。「エンベ ロープ・トラッキング」という、今回採用したアイディアそのものは、1937年に存在していた。数多くの半導体ベンダーがこのアイディアを実現しようと試 みたが、どのベンダーも成功しなかった。当社は、このアイディアを形にした初のベンダーである。

RF信号の周波数帯域幅が狭ければ、エンベロープ・トラッキングの実現はそう難しくはない。しかし、帯域幅が広がると実現が急激に難しくなる。今回の HATモジュールが対応する周波数帯域幅は20MHzである。今後は、これを100MHzに広げる。次世代の携帯電話規格LTEでは、データのやりとりに 100MHzの帯域幅を使うからだ。顧客が必要とする時期、具体的には3~4年以内には、次世代モジュールの開発を完了させたい。

このHATモジュールの電源電圧は48Vで、出力(供給)電圧は10~65V。ピーク電力は700Wである。追随可能なスルーレートは最大 2000A/μsまたは6000V/μsである。このモジュールの動作は、RF信号の周波数や変調方式には依存しない。研究段階だが、W-CDMAから OFDMへ瞬時に切り替えられることを実証済みである。

EETJ パワー・アンプの効率を高める意義を詳しく教えてほしい。 Haynes氏 パワー・アンプの効率を高める意義は、通信事業者にとって非常に大きいと考えている。電力コストを大幅に削減できるからだ。  ある通信事業者が2万個の基地局を運営していると仮定しよう。現在採用されているパワー・アンプの電力変換効率は15%で、当社の試算では消費電力は 51.7MWに達する。英国での電力コストに換算すると年間5430万米ドルである。これに対して、HATモジュールを採用してパワー・アンプの効率を 45%に引き上げれば、消費電力は16.1MW、電力コストは年間1700米ドルに抑えられる。両社を比較すると、3500万米ドルの差が生まれるのだ。

しかも、最近の市場傾向はさらに電力コストを増加させる。具体的には、英国政府の調査では、2007年9月~2008年1月の期間中に、電力の卸価格は 80%増加した。さらにもう1点。ある市場調査会社の報告によれば、無線でやりとりするデータ量は増加する一方で、年平均増加率は50%にもなる。やり取 りするデータ量が増えれば、必要となる基地局も増えてしまう。当然、新たに増えた基地局の電力コストが追加される。通信事業者が抱えているこのような課題 はあまり語られていない。15%と45%という効率の差が、どれだけ大きな意味を持つのか分かるだろう。

EETJ 今後の展開を教えてほしい。 Haynes氏 2009年には、携帯電話機の端末に向けて、HATモジュールのコンセプトを半導体チップに展開した品種を市場に投入する 計画である。現在、W-CDMAとGSMといった複数の携帯電話通信方式を使う端末では、数多くのパワー・アンプを実装している。現在開発を進めている半 導体チップを使えば、パワー・アンプの個数を5個程度削減して2つにできるはずだ。一般にパワー・アンプでは、効率と周波数帯域幅はトレード・オフの関係 にある。すなわち、効率を若干犠牲にして帯域幅を広げたパワー・アンプに開発中のチップを組み合わせれば、効率はそのままにアンプの個数を減らせるわけ だ。

このほか、基地局向けパワー・アンプの電力変換効率を60%にまで引き上げられるように、HATモジュールを改良する。

 

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